君をひたすら傷つけて
「高取さんから連絡で、無事に飛行機に乗れそうです。まだ、時間があるので、散策に行かれますか?」

「そうね。里桜たちが到着するまで少し周りを歩いてくることにするわ。雅ちゃんも一緒に行く?」

 ここまでの所要時間を考えると、一緒に散策に行っても時間的には大丈夫だった。でも、逸る気持ちからか、観光する気にはなれなかった。

「私はここにいます。もしも、早く来たら連絡しますね」

「ありがとう。雅ちゃん」

 里桜ちゃんのご両親が観光に行ってしまうと、一人になってしまった。里桜ちゃんが到着したらすぐに準備に入れるように控室の準備をして、箱の中に入っているドレスを取り出し、トルソに着せる。雅人が作ったドレスは最初にデザイン画よりも数段にいい出来だった。

 シルクで作られたドレスは光を浴びて光沢を放っている。重ねられたレースは上品でフランスでも老舗と言われる店のものを使い、薔薇を模ったモチーフは幾重に重なり、ドレスのラインを縁取っている。腰の辺りにはシルクで出来た大振りの花があしらわれ、そこから流れるドレープは柔らかさと軽やかさを魅せていた。胸元を飾るパールは本物だし、大きく広がった裾にもレースが縫い込まれてある。

 豪華なドレスだった。

 依頼されてからの時間を考えると、このドレスを作るのにどれだけ雅人が時間を掛けたのか分かった。

「雅」

 ドレスを見つめる私を呼んだのは、ここにいるはずのないリズだった。リズはコレクションの為にフランスに向かっていると思っていた。

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