君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんは少し疲れたような表情を見せながらも、今日という日を心から喜んでいるように見えた。お兄ちゃんにとって、篠崎さんは特別な人だから、感慨一入というところだろう。日本からミラノ、それから、たった一日でフィレンツェだから、疲れてないわけはない。

「ミラノはどうだった?緊張した??」

「緊張はしないけど、主演男優賞を逃した時は落胆した。出来るだけ表情に出さないように苦労したよ。でも、審査員特別賞を取ってくれて嬉しかった。それと同時にホッとした。海の努力が一番だけど、今までの道のりが思い出されたよ」

 お兄ちゃんにしてみれば、篠崎さんがモデルから俳優に転向した時から、ずっと傍にいて、彼を支えてきた。映画祭での受賞はお兄ちゃんの努力が報われた結果だと思う。篠崎さんがここまで来るまでにお兄ちゃんは心を配り、支えてきた。その結果が審査員特別賞だった。

「お兄ちゃんが頑張ったからだと思うよ。今まで、篠崎さんのことを支えたのはお兄ちゃんだよ。で、それを篠崎さんは分かっている。自分が掛けた思いだけ、返してくれたら嬉しいよね」

「それはそうだが、頑張ったのは海だよ。雅は今から里桜さんの準備だろ。色々助かるよ。海にとっても里桜さんにとってもいい式になるようにもう少し頑張って貰わないとな」

「うん。頑張る。リズがいてくれたら、安心よ。任せて」

「雅」

 お兄ちゃんはそういうと、自分の持っていた紙袋を私に渡した。

「何これ?里桜ちゃんに渡したらいいの?」

「ミラノで少し時間があったから、買ってきた。中にはワンピースが入ってる。雅に着て欲しいと思って」
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