君をひたすら傷つけて
 篠崎さんと里桜ちゃんが結婚パーティの会場に来たのはそれからすぐだった。私は里桜ちゃんの姿をみてホッとした。それはリズの手によって綺麗にメイクが仕上がっていたからだった。本当なら自分がしなければいけないことだったけど、自分のことで精いっぱいで、スタイリストとしては失格かもしれない。

 篠崎さんと里桜ちゃんは教会からそのまま来たので、タキシードとウエディングドレス姿だった。

 今さっき、教会で愛を誓った二人は幸せに包まれている。そんな微笑みあう二人を見ながら私は素敵だと心から思った。愛し愛されるという姿がこんなにも美しく心を打つものだとは思わなかった。姿形だけだったら、パリコレに出場するモデルの方が綺麗だと思うし、雰囲気もある。

 でも、どんな綺麗なモデルであっても、本物には敵わない。愛に包まれた里桜ちゃんには敵わない。おめでとうという言葉が会場から上がり、入り口の二人の方にみんなが集まってきていた。そんな中、私はリズと一緒にみんなの輪に加わった。

「ありがとうございます」

 心からのお祝いの言葉に感極まった里桜ちゃんは少し瞳を涙で潤ませたのを篠崎さんはそっと肩を抱いた。

「海斗。里桜さん。お待ちしてました。里桜さんのご両親もお待ちです」

 お兄ちゃんが『海』ではなく、『海斗』と呼んだ。その声に篠崎さんは綺麗な微笑みをお兄ちゃんに向けた。私はお兄ちゃんが篠崎さんのことを『海斗』と呼ぶのを初めて聞いたような気がする。

「先に挨拶をしてくるよ」

「それがいいですね。挨拶が終わったくらいにシャンパンを用意しておくよ」

「色々ありがとう。助かったよ」

「海斗の大事な結婚式にぼーっとはしてられませんので」
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