君をひたすら傷つけて
「綺麗だな。やっと周りの風景を見る余裕が出来たよ」

 お兄ちゃんは私の肩越しに窓の外を見つめ、そんなことを言った。余裕が出来たということは緊張していたのだろう。でも、あんなに堂々としていて、緊張しているとは思わなかった。

「そう?お兄ちゃんはずっと落ち着いているように見えたけど?」

「一応、スケジュールは練りこんだつもりだけど、今回は映画祭が絡んだから、間に合うのか心配だったし、パパラッチを連れてくるわけにもいかないから、気も使ったし。海はいつも以上に浮かれているから、それも心配だったし」

「でも、自分の結婚式に浮かれない新郎って居ないと思うけど」

「確かにな。でも、海が里桜さんと出会ってから、ずっと助けて貰ってばかりだな。いつも助かるよ。俺じゃ女性のことは分からないことが多いから」

「でも、このワンピースを見ると、女性のことは分からないっては思わないけど」

 お兄ちゃんにプレゼントして貰ったこのサックスブルーのワンピースはリズだけでなく、里桜ちゃんのお母さんからもよく似合うと褒められた。

「それならいいが、雅に似合うと思って買ったけど、それも気に入って貰えるか不安だった」

 タクシーは緩やかにホテルのロータリーを回り、正面玄関に止まった。ドアマンがスマートに歩いてくると、ドアを開けてくれた。先にお兄ちゃんが降りて、私にそっと手を差し出した。その手に私は自分の手を重ね、タクシーから降りるのを手伝って貰った。
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