君をひたすら傷つけて
 病院特有の消毒薬の匂いを感じながら、数学を解いた。毎日、放課後になると、塾に行く前に病室に通った。義哉は病院のベッドの上で私に色々なことを話してくれた。自分に残された時間は短く、その最後の望みで高校に編入したこと。卒業したかったけど、出来なくて残念だったけど後悔はしてないということ。

 私が望むような大学受験も出来ずに、ただ、ベッドの上で時間を過ごしていたが、受け入れながらも前向きに生きていたこと。

 ただ、ありのままの自分を受け入れ、真っすぐに前だけを見ていた義哉が私には眩しかった。そして、そんな義哉に恋をして、今になる。

 もっと一緒に居たかった。もっと、話したかった。もっと近くに行きたかった。思う気持ちはいくらでもあるのに、もう義哉はいない。

 結婚式、結婚パーティ、そして、嬉しそうに笑うお兄ちゃんに重なる義哉の影があった。微笑みが幸せそうな横顔が私を苦しくさせた。橘さんと叶くんが似ているように、お兄ちゃんと義哉も似ている。最初は全く違うと思っていたのに、さっきみたいに話している姿は義哉に似ていた。

 遺伝子が…繋がっているから。

 私はお兄ちゃんの中に義哉を探している。


 私はミニボトルのワインを窓からの景色を見ながら飲み干すと、涙が零れた。それは思い出が余りにも綺麗だったから、今も恋をし続けている。ミニボトルも飲み干し、自分の動きが緩やかになっていくのを感じる。

 明らかに酔っていた。

 ワインのボトルを飲み干して、そろそろ寝ないといけない時間にはなっていたけど、今日は気持ちが高ぶっていて、こんなにもワインを飲んで酔っているのに眠気は訪れてはくれなかった。

 そんな時だった。

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