君をひたすら傷つけて
 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろうと思って、部屋の覗き窓から見ると、そこにはお兄ちゃんの姿があった。さっきのスーツの上着を脱いだだけの姿から、ラフな部屋着に着替えている。そして、髪は濡れたままだった。

 手には私の携帯が持たれてあり、私は自分が携帯を忘れたことさえ気づいてなかった。さっきい、お兄ちゃんの部屋に行った時にカードキーと一緒に携帯も持って行った。いつ連絡が入るか分からないから、いつも持ち歩いているけど、さっきは自分の気持ちを抑えることが出来ずに、カードキーだけを持って部屋に戻ったのだった。

 このまま寝たふりをするのがいいかと思ったけど、ここはフィレンツェのホテルで、明日は里桜ちゃんのご両親を空港まで送り届けないといけない。そんな中で携帯がないのは厳しい。でも、さっき泣いてしまったから、会えば、お兄ちゃんに心配させる。

 待たせるのも悪いし、だからと言って、ドアの隙間から手を出してもらうだけなんて出来ない。涙を拭いてから玄関のドアを開けることにした。気付かれないといいとは思いながらも、お兄ちゃんを誤魔化せるとは思ってなかった。

「どうしたの?」

「携帯忘れてた。明日の朝、必要だろ」

「ありがと。忘れたこと気付かなかったから、助かった」

「……。どうした?泣いていたのか?どこか具合が悪いか?」

 お兄ちゃんに気づかれずにやり過ごすなんて出来なかった。お兄ちゃんはスッと座ると、下を向いていた私の顔を覗き込む。まさに子どもに対する反応だった。俯く私の視線を逃してはくれなかった。

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