君をひたすら傷つけて
「悪い。起こしてしまったな。まだ早いから寝てていい」

「ごめん。お兄ちゃんを傷つけた」

「そんなことないよ。俺のことはいいから、雅はもう少し寝た方がいい。食事が無理そうだったら、出発まで寝ていてもいい。何か欲しいものあるか?」

「何もない」

「そうか。身体は大丈夫か?」

「うん」

 そういうとお兄ちゃんは私の身体をそっと包み込むように抱き寄せた。そして、私の唇に自分の唇を押し当てた。アルコールは抜けているのに、唇を重ねながら温もりを感じていた。

「あと少し、ゆっくりしよう」

 そういうと、お兄ちゃんは私を抱き寄せた。そのままベッドに身体を預けたお兄ちゃんは渡井を抱きしめたまま、目を閉じている。綺麗な瞳は閉じられていて、いつもの隙の無さはどこに行ったのかと思うほど、無防備だった。その無防備さを見ながら、私も目を閉じる。日本に帰ったら、こんな穏やかな時、愛しい時間を持つことは出来ないだろう。

 だから、今だけ。
 日常と違う場所でのことと言い訳出来るだけ。

 優しさと温もりと愛を……私に下さい。

 

 起きて一時間以上も私はお兄ちゃんの腕の中に居た。

 私を抱いた後、目を覚ました時点でお兄ちゃんは自分の部屋に戻ると思っていた。でも、お兄ちゃんは自分の部屋に戻らす、ベッドの中で私を抱きよせたままだった。私は眠ることは出来ずに、眠っているお兄ちゃんの腕の中で時間を過ごした。
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