君をひたすら傷つけて
 フィレンツェの街並みを少し観光してから、ローマに向かうことになっている。そして、ローマから日本へ帰国する。フィレンツェの街を歩きながら駅に向かうことになった。タクシーで行くよりも風景を楽しみたいからと、駅まで歩いていき、それから電車で空港に向かうことになった。

「お父さん。この街、絵本の中みたい」

 そう言ったのは叶くんだった。

 橘さんと手を繋いだ叶くんは私の目の前でニコニコしながら、父親である橘さんに話しかけている。後ろから見ていると本当に綺麗な親子だと思う。

 叶くんの言う通り、日本の鉄筋コンクリートだらけの街に比べたら、フィレンツェの街は石で出来ているから、童話の中に出てきそうな雰囲気だと思う。素直な叶くんの表現に私は顔が緩むのを感じた。昨日、感じた羨ましいと思う気持ちも全て払拭されていて、二人のやり取りを好ましく思う私がいる。

 叶くんを見つめる私を橘さんはニッコリと笑って、話しかけてきた。

「雅さん。すみません。叶のことちょっとだけお願いしていいですか?フィレンツェの街を少し撮りたいと思って」

「いいですよ」

「助かります。叶。少しだけ雅さんと一緒にいてくれるか?」

「うん。大丈夫」

「すぐに戻る。じゃ、すみません。よろしくお願いします」

 そういうと、橘さんは自分のバッグからカメラを取り出すと、撮影を始めた。何に使うとかではなく、綺麗な風景があれば撮りたくなるのだろう。それにしても、神崎くんにしろ橘さんにしろ、夢中になると子どものような表情をする。それに比べて、叶くんは真面目な顔で話しかけてきた。

「雅さん。すみません」

「なにが?」

「本当は僕の面倒を見るより、観光が良かったですよね」
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