君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんに少し観光をすることを言うと、写真を取り出した橘さんが少しの時間で終わるとは思ってなかったのだろう。飛行機の時間はまだあるので、少しならいいと言ってくれた。そして、私は叶くんと二人でフィレンツェの街を歩き出した。

 時間からして、十分か十五分しか時間はないだろう。でも、何となくこの子を楽しませてあげたいと思った。

 街中にある歴史ある建造物を見ながら、普通に街歩きをする。叶くんは日本とは全く違う光景をキョロキョロしながら、見つめている。歴史ある街だからこそ、教会のような建造物には彫刻が施されている。

「余り治安が良くないから、手を繋いでもいいかな?」

 十歳の男の子に対して、手を繋ぐということが果たして正しいのか分からない。でも、賑わう街で何かあっては困ると思った。近くにある橋の両側には伝統工芸品の店や、貴金属の店が続いている。

「ありがとうございます」

 そういって手を差し出した叶くんの手を握ると街並みを見ながら歩いていると、次第に手が温もっていく。子どもの体温の温かさだろうけど、それが心地よいと思ってしまった。そんな賑わう街の中を二人で歩いた。

「雅さん。あれは何ですか?」
「あの塔。凄く綺麗です」
「あの彫刻って人が堀ったのですよね。どのくらい掛かったのかな」
「みんな楽しそうですね」

 知っていることは教え、知らないことは携帯で検索してから、説明する。その度に、叶くんはニッコリと笑う。そんな姿を見ながら、私は思った以上に楽しんでいる。看板に書かれた文字を読み、意味を教えると、叶くんは納得したような表情をする。

 それが可愛かった。
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