君をひたすら傷つけて
「惚気ですか?」

「そうですね。惚気です」

 奥さんのことが好きなのは分かるけど、こんな仕事の関係でしかあったことのない人に何を話すのだろうとは思った。自分から惚気るほど奥さんが好きなのが橘さんから伝わってくる。色々な恋がある。

 篠崎さんと里桜ちゃん。橘さんと奥さん。
 本当に色々な恋がある。その恋の先に愛があるのかもしれない。酔うような甘い言葉は恋だけでなく、愛が溢れている。

 少しだけ羨ましい。

「雅さんは高取さんの弟さんの知り合いですよね。そう聞いてますが……」

「はい。高校の同級生でした。たった数か月でしたが、出会ったことを感謝しています。彼と出会わなければ、きっと与えられたことを当たり前としか思わなかったと思います。そして、スタイリストとして日本では仕事もしてなかったかもしれません」

「そうですね。出会いって時間ではないですね。タイミングか…神様の気まぐれか」

「クリスチャンですか?」

「いや。無神論者です」

 無神論者と言う橘さんが面白いと思ってしまう。

「神様とか言うからクリスチャンかと思いました」

「私が我儘で自分勝手な人間です。だから、信じるのは自分。それと、自分が大事に思う人だけです。でも、自分が決めて、自分で動けば、その責任は自分にある。人のせいにせずに自分の行動に責任を持つのがいいと思います」

「そうですね。自分で決めたら、責任を取るのも自分。シンプルだからいいですね」

「そんなものですよ。必死に考えたところで、自分で自分の将来を決めることが出来る。だから、責任も自分」
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