君をひたすら傷つけて
 橘さんの言う通りだと思う。出会って、恋をしたことも。フランスに行ったことも決めたのは全部私。責任を取るのも私。誰でもない。そして、昨日の夜の行動も責任は私にある。身体に残る甘い胸の痛みも、全て私が望んだこと。

「そうですね。高取さんの弟と出会って、それから何年も経ってますが、今も高取さんにはお世話になってます」

 橘さんは綺麗な微笑みを浮かべると私を見つめる。目を細め微笑み表情はモデルを見慣れた私でもドキッとしてしまうくらいに魅惑的だった。

 現役と言っても遜色ないほどの煌めきを感じる。仕事柄、篠崎さん以外の撮影に参加することもあり、モデルも俳優にも会う。でも、橘さんの輝きはどうだろう。いますぐに復帰してもいくらでも仕事はありそうだと思った。

「私が知る限り、あの高取慎哉があそこまで心を砕いて、人の世話をするのは、篠崎海斗とあなただけです。俺も高取さんにはモデル時代に何度かお世話になったことがありますが、正確無比な機械のように仕事を仕事と割り切るような人でした。でも、今回の結婚式にしろ、結婚パーティにしろ、驚きました。高取さんがあんな顔をして笑うのを見れるなんて思いもしなかった」

「そうですか?高取さんはきっと篠崎さんや私に亡くなった弟さんを重ねているのだと思います。元々、本当に優しい人です。いつも人の事ばかり考えて、行動して、自分のことはいつも後回しで……。優しい人です」

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