君をひたすら傷つけて
「それが特別だということです。彼が公私の区別が出来ないような人間でないのは分かっています。私の方が海斗より先に彼に出会ってますから。高取さんが優しいのは海斗とあなただけですよ。出会った頃の彼は怖かったですよ。本気で。仕事しか興味ないロボットの様でした」

 そういって、昔を懐かしむように微笑んだ。

「でも、今の方がいいです。彼がいる限り、海斗は自分の最大限の魅力を存分に発揮出来る。俳優としても、本当に楽しみです」

 そんな話をしていると、横で寝ていた叶くんがもぞもぞと動きだし、コロッと身体を橘さんの方へ向け、橘さんの手を握り、それに抱き着くように、また寝息を立てだした。

「可愛いですね」

「こんなに可愛いとマジで困る。望むことを全て叶えてやりたくなるし、世界中のどんな敵からも守ってやりたくなる」

「敵って……」

「親なんでそんなものです。でも、妻にも同じことを思っています。妻も本当に可愛いし、守ってやりたいと思います。でも、中々守らせて貰えませんが。男は好きな女の子を大事にしたいし、守りたいものなんです」

 橘さんはそう言いながら、握ってきた手に自分の手を重ね、キュッと握ってから、髪を優しく撫でる。その姿を見ながら、私は素敵だと思った。

 モデルの頃の映像も見た事あるし、ニューヨークで映像作家としての橘さんも知っている。でも、叶くんの手を握り、髪を撫でる姿が一番魅力的に感じた。
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