君をひたすら傷つけて
 テーブルに私のオレンジジュースが届くとお兄さんは自分のコーヒーのカップに口を付ける。そして、言葉を探すような間と静かな溜め息と共に話し出した。


「本当はこんなことを私がいう権利もないと思っている。でも、敢えて言わせて貰う。もう、義哉に会いに来ないで欲しい。藤堂さんと一緒にいると義哉は苦しい思いをする。藤堂さんの性格からして隠されても納得しないだろうからハッキリと言わせて貰う。

 義哉には時間がない。藤堂さんが思う以上に義哉の具合は悪い。これ以上義哉に近づくと義哉の心に傷が残る。そして、それ以上に藤堂さんが傷つく」


「それって」

「時間がないんだ。もう」

 お兄さんの表情に言葉の語尾の微かな震えに痛みを感じた。私の心に諭すような言葉は、今の高取くんの状況を教えてくれる。私が思う以上に高取くんの容体は悪い。


「嘘。あんなに元気なのに信じたくない」


 入院しているとはいえ優しい微笑みを浮かべながら毎日私に数学を教えてくれる。最初に学校で会った時と殆ど変りはしない。でも、目の前にいるお兄さんの表情は苦悶に満ちている。嘘でないと頭では分かっていても心がそれを受け入れない。足掻いても何も変わらないと分かっている。

「義哉の転校がたった二か月だったと思う?卒業まで一緒に居ないと思う?」


「え?」
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