君をひたすら傷つけて
 髪を拭きながら、リビングに行くと、携帯電話を握りしめていた里桜ちゃんは私の方を見ていた。里桜ちゃんの表情から、連絡がついたのが分かったので良かったと思った。きっと短い時間しか話せなかったかもしれないけど、それでも少しでも声を聞けたならよかった。

「気持ちよかったわよ。里桜ちゃんも浴びてきたら?その後、また飲みましょ」

「シャワーお借りします。でも、もう、そんなに飲めないです」

「じゃ、里桜ちゃんはお茶でもいいので、女子会を楽しみましょ。タオルは出しているし、女性用のボディシャンプーとか好きに使っていいから」

「はい。ありがとうございます」

 そういって、里桜ちゃんがバスルームに消えていくのを見ながら、私も自分の携帯を見た。お兄ちゃんからメールが来ていた。

『海の仕事は分刻みで進んでいる。スケジュールの変更があったら連絡する。それと、雅。無理はせずにゆっくり休んで。雅の傍に居れず、心配に思ってる』

 優しい言葉はイタリアに行く前と変わらないのに、その文字に違う感情が揺れ動く。部屋着の上から私は無意識に左胸の上を触っていた。

 数日して消えたら、私は何を思うのだろうか。

 なかったことにして、今までのような生活を出来るとは思えない。迫りくる別れを今は考えたくない。今日、頼まれたとはいえ、里桜ちゃんが一緒にいてくれてよかった。もしも一人だったら、私はあの夜の事ばかりを考え、自分の思考に絡み取られるだろう。

 結論を出すのが怖いと思うのは、優しい時間が長すぎたからかもしれない。
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