君をひたすら傷つけて
「篠崎さんらしいわよね。でも、元々優しい人だけど、里桜ちゃんと出会ってから、一段と彼はよくなったわ。里桜ちゃんといると頑張ろうと思うって言っているらしいわよ」

 お兄ちゃんは普段から篠崎さんのことをよく話している。どんな風に成長していっているかを楽しそうに話す。それを聞いているのが好きだった。一生懸命なお兄ちゃんが好きだった。お兄ちゃんの姿に成長した義哉を重ねたこともあった。

 でも、イタリアで、義哉とお兄ちゃんは違うと身をもって知った。あの夜、私が抱かれたのは義哉ではなく、お兄ちゃんだった。それは私が望んだことだった。

「私も海斗さんと一緒にいると頑張ろうと思います」

「お互いが高められる関係っていいわね。羨ましいわ」

「私は雅さんが羨ましいです。綺麗だし、お仕事も出来るし、優しいし、憧れます」

「ありがとう。でも、私も里桜ちゃんを羨ましいと思うことがあるのよ。里桜ちゃんって本当に素直に自分の気持ちを言葉にするでしょ。それって本当に大事なこと。私にはちょっと無理かな」

「雅さんは素直になれないのですか?」

 里桜ちゃんの言葉でやっぱりお兄ちゃんのことを思いだしてしまう。言葉に出来ない思いを紡ぐことは出来ずに、立ち止まって、我儘で雁字搦めになっている。

「そうね。いつの間にか素直に自分の気持ちを言葉にするのが怖くなったかもしれないわ。心の中にたくさんの言葉はあるの。でも、自分に自信が無いからかもしれないわ」

「雅さんは今のままでも十分に魅力的なので、これ以上魅力的になられると、私の目標が高すぎるので徐々に素直になってくださいね」

「今日は里桜ちゃんを一人にしたくなくて呼んだのに、私の方が救われているかも。ありがとう、里桜ちゃん」
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