君をひたすら傷つけて
「体調が悪いのは嘘ではないわ。だから、体調が悪いから、後ほど挨拶に行くってことにしたらいいでしょ」

「でも……」

「とりあえずは身体を治すことを第一に考えないといけないし、高取さんとは少し距離を置けば、自分の気持ちも見えてくると思うわ。決めるのはそれからでも遅くないわ。それに、帰りたくなったら、その時は帰ればいいわ。でも、帰るなら自分の気持ちをしっかりと持って、それでないと、高取さんに失礼と思うの」

 まりえの言ったとおりに、次の日にはリズがフランスからやってきて、私を見るとふわっと抱き寄せた。

「私が来たから大丈夫よ。何も心配しないでいいから」

 お兄ちゃんのマンションから、私の荷物を運んだのは、リズで、私はまりえのマンションから出ることすら許されなかった。もしも、お兄ちゃんに会えば、せっかくの決意が揺れるかもしれないからと言う。

 ただ、お兄ちゃんに私から預かった合鍵を返そうとするリズに、それだけは受け取れないと言って受け取ってくれなかったと言う。

 お兄ちゃんから毎日のようにメールが届く。帰って来いとかではなく。毎日の日記のようなもので、今日何があったかなどの、毎日一緒に住んでいた時にリビングで話してことを文字にしているようなものだった。

 返事をする時もあれば、しない時もある。

 それでも、毎日のようにお兄ちゃんからのメールは続いた。

 差し障りのない程度の返事をするしか出来なかった。今の私はこれからをどうしていいか分からなかったし、これから何をすればいいのかも分からなかった。
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