一途な執事はいかがですか?
「何か言いなさいよ」


さっきから沈黙が10分近く続いていたので、私からしびれをきかせて話しかけてしまった。

「…はい。あの、お嬢様は僕の事、覚えていませんよね?」

あの無表情だった立花が、突然悲しそうに呟いた。

「…え?」

突然の事にびっくりして、思わず気の抜けた返事をしてしまう。

私……この人に前にも会ったことあるっけ…?
…いや、でも、こんなある意味目立つ人を忘れるわけがない。思い出そうと自然にうつむいてしまう。

そんな私を見てか、さっきの悲しそうな表情から、またすぐに何の感情もない顔になると、


「……失礼しました。何でもありません。ところでお嬢様、明日高校の入学式がありますので、今日は早めにお休みになってください。
僕はこれで失礼いたします。」

とそそくさとドアの近くへ行ってしまう。
意味がわからない。

「…なんなのよ?」

つい思っていたことが口にでてしまう。
彼を無表情のまま私を見つめてきた。

そんな立花を見ると、ここで深く追求しても、きっと何も教えてはくれないことくらい私でもわかる。


「……まぁいいわ。わかった。おやすみ」

立花のむかつくくらいきれいな顔をにらみながら言うと、

「おやすみなさい」

とまたむかつくくらいの無表情で返事をかえしてきた。

だめだ…私…こいつとはわかりあえない気がする…

「あ…もうこんな時間だ…」

ふと部屋の時計を見ると、11時をこえていることに気がついた。新しい執事ということで、仕事の引き継ぎなどややこしいことがあり、いつの間にかこんな時間になってしまったらしい。


「…寝よう」

私はベッドに入り、ゆっくりと目を閉じた。
ドアの外から立花が覗いていたことなんて、気づかずに。

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