あなたと恋の始め方①
 私の及びもつかないほどの速さで中垣先輩の脳は動いているのだろう。昨日まで山場だったのに、今回の取締役の来所により、商品化の本格的な日程が決まってしまったようなもの。高見主任は緩みと持たせたような期限を言ってきたけど、それは思ったよりも時間が足りない。


 夏ではなく、春。時間はあるようでいて、実際には全く足りない状態だった。今回の山場でもこんなにも苦労したのにこれが季節を一つ飛び越えるとなると厳しくなるのは間違いない。


「春って言ってましたね」


「ああ。春となると、忙しくなるな。まあ、何となく想像していたけど」


「そうなんですか?」


「ああ。商品化は出来れば、夏にしたかった。でも、この時期に取締役の研究所視察があるなんて、何となく想像がつくだろ。あれは研究の経過を確認するだけでなく、後、どれくらいの時間を掛ければ商品として出来るのかを見極めるため。だから、仕事の出来る高見主任と一緒に来たのだと思う。取締役では商品化の目処なんかわからない。でも、あの本社営業一課の主任である高見龍太が来るという意味はそういうことだよ」


 私は全く想像つかなかった。研究成果の視察とばかり思っていた。


「じゃあ、さっきの高見主任とのやり取りは?」


「俺の中での抵抗。でもさ、高見主任もだけど折戸さんって男も怖いな。ニコニコ笑って、最後には思ったとおりにしてしまう。多分、もっと俺が強行に反対しても、結局は高見主任と折戸さんの思いどおりになるのは決まっていたと思うよ」


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