あなたと恋の始め方①
 こんな風に電話で声を聞いているだけで小林さんに会いたくなる。会って何があるというのもないけど、私は今、この瞬間に小林さんに会いたい。次第に自分の中で恋が形作っていくのを感じながら、私は携帯から聞こえる優しい声に耳を傾けていた。微かに聞こえる小林さんの息遣いさえも私をドキドキさせる。


「わかりました。でも、お酒飲んでくると思うから、飲み過ぎて酔っ払って迷惑掛けるかもしれません」


「いいよ。俺、元野球部。体力には自信があるし、美羽ちゃんぐらいなら片手で抱えられると思う」


 そんな小林さんの言葉を聞きながら納得する部分もある。小林さんのガッチリとした体躯なら私くらいなら軽々と持ち上げられるだろう。でも、酔って担がれるのは避けたいけど、好きという気持ちが募ってきて、少し甘えてみたくなる。でも、どんなに甘えても小林さんなら受け止めてくれそうだった。それが私だけに向けられた優しさだったらいいのに…。そんなことを思いながらも甘えた言葉を私は言う。


「酔った時も見捨てずに部屋まで送ってください」


「もちろん。じゃあ、夜にね」

「はい」


 小林さんの電話を切ると私は駅の方に向かい歩き出す前に折戸さんに電話をすることにした。資料作成に少し残業をしたから、折戸さんを待たせた形になっている。だから、『今から急いでいく』と連絡をしたかった。携帯の連絡先の中から折戸さんの番号を探して、スルリと画面を撫でると、折戸さんへの電話が繋がる。ワンコールの後にすぐに折戸さんの声が聞こえた。耳元から溶けそうな甘い声は周りの雑踏も打ち消すほどの威力で私の心に響いた。

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