あなたと恋の始め方①
 折戸さんは何気なく言っているつもりなのかもしれないけど、折戸さんの言葉はたまに心臓に悪い。ずぶずぶと深みに嵌ってしまいそうなくらいに私は甘いシロップの中に居るような気がする。これが作っているだけでもなく自然にそうなるのだから本当に優しいのだろう。


 待ってくれるとは言ったけど、明日は東京に帰って、それからフランスに戻るのだから、少しでも時間は無駄にして欲しくない。電話を切って、すぐに私は駅の方に向かって歩きだした。駅まで10分の距離だけど、早足だから少しは早く着くだろう。急がなくていいと言ってくれた優しさは分かるけど、少しでも早く折戸さんに会いたいという気持ちもあった。


 その気持ちはさっき小林さんに対して会いたいという気持ちとは違い、自分のお兄ちゃんに久しぶりに会うという雰囲気の方が近い。折戸さんの包容力は実の兄さえも凌駕しそうな勢い。


 駅に着くと、駅ビルの一階にあるカフェに緑色のオーニングが目に入る。ここだと思って近づくと、私が分かりやすいようになのかどうかわからないけど、窓際の席に折戸さんの姿が見つけることが出来た。ガラス越しなのに目が行ってしまう存在感は圧巻で、私は折戸さんの姿に魅了される。


 先ほどはスーツだったけど、一度ホテルに戻って着換えたのだろう。横の席に薄手のコートは置いてあるけど、折戸さんは普段着にほど近いラフな格好で、折戸さんはタブレットパソコンを真剣に見つめ何かを打ち込んでいた。真剣な横顔から仕事をしているのだろうと思われる本社営業一課でも見慣れた横顔にホッとする。

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