あなたと恋の始め方①
「じゃあ、ちょっとだけ。今日の研究所での視察の件を早急に書いておかないと忘れそうで。美羽ちゃんもコーヒー飲む?」


 テーブルの上には飲みかけのコーヒーが置かれていて、それは既に冷めきっているようで…。いつからここにいたのだろうと思わせる。でも、聞いても本当にことを折戸さんが口にすることはないだろう。だから敢えて聞かない。


「はい。飲みながら待っています」


「じゃあ。お言葉に甘えて。もう少しで終わるから」


 折戸さんはもう一度タブレットパソコンを開くと、私に向かって微笑みながら画面の上を軽やかに指を動かした。私はテーブルに届いたコーヒーを飲みながら折戸さんの手の動きから目が離せなかった。書いている内容は見えないけど、きっと、今回の視察のことだからフランス語が並んでいるのだろう。


「俺に惚れた?」


「折戸さんの仕事ぶりには惚れてます」



 私は素直に自分の気持ちを言っただけなのに、折戸さんはクスクス笑っていた。でも、自分ではそんなおかしなことを言った覚えはない。私は本気で折戸さんの仕事ぶりを尊敬しているし、私は研究所で研究をしていたのだから知識は私の方が上かもしれないけど、どれだけ商品に対する報告を呼んだのだろうかとさえ思うこともしばしばだった。


「美羽ちゃんって本当に仕事人間だよね。まあ、そこが可愛いんだけど」


 可愛いという言葉に過剰反応してしまう。耳まで一瞬で赤くなったのが分かった。折戸さんは本当にドキドキさせる。心臓に悪いと思いながら、その言葉をスルーする。黙ったまま、顔の火照りを誤魔化すかのようにコーヒーに口を付けたのだった。


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