あなたと恋の始め方①
 職人さんの声を聞きながら私はどうしようかと悩んでしまった。寿司で嫌いなものはない。でも、ガラスケースの中に入っているネタはどれもこれも高そうで手が出ない気がする。ガラスケースの中のネタはキラキラと輝いているようにさえ見え、どれもこれも美味しそう。そして、敷居が高い。


 玉子とかんぴょう巻とかカッパ巻きとか頼んでもいいだろうか?


「美羽ちゃんはどうする?何がいい?」


「玉子とかですか?」


 私がそういうと折戸さんはクスクス笑う。そして、職人さんもニッコリと微笑んだ。何が可笑しいのか分からないけど、それでも折戸さんが笑ってくれたことで私の緊張は少しだけ解けた。


「中々なところを選んでくるね。この店の玉は美味しいよ。でも、その前に普通のお寿司も食べてみない?嫌いなものがなければ俺が選んでいい?」


「お願いします」


「じゃあ、色々食べてみよう。それと美羽ちゃんは何を飲む?ビールでもどう?」


「お茶でお願いします」


「じゃ、俺もお茶で」


「いいんですか?」


「ああ。折角の寿司を食べるならお茶の方が美味しく食べれる」


 そんな折戸さんの言葉に反応したのは私ではなくカウンターの奥に居る職人さんだった。


「そんなことを言われると緊張しますね」


 緊張しますと言いながらも嬉しそうな顔をしている職人さんはガラスケースの中をゆるりと見回した。職人というものは目の前にその味を十分に理解してくれる客が来るとこんなにも違うのかもしれない。先ほどよりも緊張の色を増した職人さんは私たちの方を見て微笑んでいた。


「期待します」


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