あなたと恋の始め方①
 今回の折戸さんの帰国は研究所での新商品の開発の件が一番だと思うけど、優しい折戸さんのことだから、交換留学の候補に私の名前が挙がっているのを見て、心配して帰ってきてくれたのだと思う。実際に折戸さんは高見主任と一緒にわざわざ静岡まで来てくれて、もしも断るならと猶予までくれた。


「それだけではないと思います。研究所の新商品のことで取締役も一緒に静岡に来ていましたから」


「海外の研究所との交換留学の話は俺も知っている。研究員としては一段階上がれるし、色々な場所で研究することの意義も分かっている。美羽ちゃんはどうしたいの。もしも、選ばれたらフランスに行きたい?」



 運転をしながら、私のほうを見ないで言う小林さんから視線を外す。なんと答えたらいいのだろう。色々な思いが私の中に渦巻いている。でも、中々言葉にはならない。


 車の窓から見えるのは流れる光。車のライトによって流れる光の川が出来ている。私と小林さんの乗った車も、この光の川の流れの一つだと思う。巻き込まれそうな光の渦に私はいる。


「正直混乱しています。研究員として交換留学に行くというのは勉強になるので、これからのことを考えると悪くない話です。でも、いきなりフランスというのも躊躇します。それに私と決まったわけではないです」


 もしも、私が小林さんのことを好きじゃなかったら…私は迷わず、この話を受け、フランスに行ったかもしれない。私には仕事しかなかったから。

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