あなたと恋の始め方①
『帰りたくない』なんて言える可愛らしい上級スキルは持ち合わせてなかった。自分の気持ちを相手に伝える難しさを私は知る。


「うん。じゃ、送る」


 そんな小林さんの言葉に消沈する私がいる。自分で言ったのに、いざ、その通りになると気持ちが落ちていく。もう少し一緒に居たいと思う気持ちは伝えることが出来なかった。コンビニからマンションまでの距離はそんなになくてあっという間に着いてしまった。考えてみれば、このコンビニには歩いてくることもあるくらいで私のマンションからとっても近い。


 だから、車なら本当にあっと言う間だった。マンションの前には時間のせいもあるけど、人通りは全くなく、とっても静かだった。そんな見慣れたマンションを見ながら私は気持ちが落ちていくのを感じていた。


「着いたよ」


「今日は迎えに来てくれてありがとうございます。本当に嬉しかったです。それにとっても助かりました」


「なら、よかった」



 このまま、ここにいたら、私は帰りたくなくなってしまいそうで怖かった。でも、明日は私も小林さんも仕事だ。帰らないと明日の仕事に響く。これ以上の迷惑は掛けられない。そんな迷惑を掛けていいわけない。


 帰ろう。


「ありがとうございました」


 自分の心に言い聞かせ、頑張って帰ると心に強く思いながらドアに手を掛けると、不意に、その手に大きな温かいものが重ねられた。それは私の左手の上に重ねられていた小林さんの右手だった。

 
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