あなたと恋の始め方①
 車のドアを握った私の手の上には小林さんの温かい手が重ねられている。手だけではなくて、身体も近づいていて、小林さんの胸元が私の目の前にあった。ふわっと小林さんから普段なら分からないくらいの石鹸の香りがする。こんなに小林さんの傍に行ったのは初めてで、心臓はこれ以上ないくらいに跳ねた。壊れるんじゃないかって言うくらいに跳ねている。


 ドキドキは最高潮で、私は自分の顔どころか耳まで熱くなっていく。鏡を見ないでも分かるくらいに真っ赤だと思う。恋愛経験のほぼない私にはまるで抱きしめられているくらいの距離が苦しかった。息が苦しくて…苦しくて呼吸の仕方を忘れそう。


「ごめん。後10分だけ時間いい?」


 驚いて小林さんの方を見ると一瞬、私の視線の全ては小林さんで埋められてしまった。小林さんも私との距離が近すぎると思ったのか急に身体を話、自分の口元に手を添えた。いつもの小林さんとの違うから私も戸惑ってしまう。


「そのくらいなら」


「じゃ、車を動かすね」


「はい」


 そんな私の言葉を受けて小林さんはゆっくりと私のマンションの前から車を動かした。車はゆっくりとスピードを増し、徐々に私のマンションから離れていく。私もまだ一緒に居たいと思っていたから帰りたくないと思っていた。でも、小林さんはどこに行くとも言わずにハンドルを握る。


 そんな横顔を見ながら、私は小林さんと一緒ならどこでもいいと思った。


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