あなたと恋の始め方①
 小林さんが車を止めたのは、私のマンションからそんなに離れていない住宅地の中にある公園の横だった。ここの道路は少し広くなっていて車を止めて話すにはいい場所だった。休日の昼間には親子連れが集まり、車で来た公園利用者の駐車場代わりになっていた。


「あのさ、美羽ちゃん…」


 名前を呼ばれ…でも、その後に言葉を待つ私には何も言葉が聞こえて来ない。ふと見上げると、小林さんは視線を一点に身体を強張らせていた。住宅地の真ん中にある真夜中の公園には誰もいないと思っていたのに、先客がいたのだった。暗がりのベンチに座る恋人らしき二人は身体を寄せ合い…。車の中から見ても分かるくらいに熱烈なキスを始めたのだった。


 テレビのドラマとか映画とかでそんなシーンは見たことあるけど、実際に目の当たりにするのは初めてで、見てはいけないものを見てしまった気がする。でも、月明かりの下。愛を確かめるようにキスをしている二人はまるで映画のワンシーンのように綺麗でもあって視線を奪われた。


 遠目でしかも月明かりだから、実際にはほぼシルエットしか見えないのに、それでも男の人が大事そうに女の人を抱き寄せているように見える。ちょっと、恥ずかしいけど、とっても綺麗。


 でも、横にいる小林さんの顔を見ることが出来なかった。このタイミングでのラブシーンを目の当たりにするのは厳しい。


「えっと、あのさ、ちょっと場所移動するね」


「は…はい」

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