あなたと恋の始め方①
 車は公園を離れていくけど、さっき目にした光景が脳裏に焼き付いてしまっていて、何を話していいのか分からず口を噤む。困ったことにさっきよりも横にいる小林さんを意識してしまう。小林さんも何かを考えているようで、小林さんも黙ったまま。勿論、私も黙ったまま時間だけが過ぎる。どうしようかと心の中が騒いで、でも、そうしていいかわからなくなっていた。


「俺、人のラブシーン見たの初めて…強烈だった」


 小林さんはそんなことをボソボソと呟くように言うから、フッと私の身体から力が抜けるのを感じる。あまりにも吃驚して身体が緊張で凝り固まっていたのだと思う。でも、同じようなことを小林さんも感じているのでホッと安心もする。


「私もです。吃驚しました」


 吃驚はしたけど、それでもとっても綺麗で…少しだけ羨ましくもある。恋に憧れているのかもしれないと思った。好きな人が真横に居るのに私は自分の気持ちを言うことが出来ない。そんな私にとって、あのシルエットの二人は…眩く見えた。


「ねえ、美羽ちゃん」


「はい」



「俺がフランスに行かないでって言ったらどうする?」



 私は自分の息が止まるかもしれないと思った。ドキッとしてしまい、苦しくなる。サラッと小林さんは運転しながら言ったけど、私にとっては今日の昼から頭の片隅から離れないことで考えても今は答えが出ない気がした。さっきまでの星空はゆっくりと雲に覆われていくのが、視線の端に見える。ただ、単に風で雲が流れるだけなのに、それでも私には気になってしまった。

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