あなたと恋の始め方①
「迷うと思います。それにまだ、私に決まったわけじゃないです。フランス研究所との交換留学というのは研究員としては憧れのことです。選ばれたらそれは名誉なことだと思いますが、今の私はまだその域に達してないと思います」


 素直な気持ちだった。


 研究員としてフランスの交換留学に選ばれたらそれは名誉なことだし、これからの自分がステップアップされるのは間違いない。研究をするものとしては海外の研究所との留学の話は光栄なことだし、断る人は居ないだろう。でも、私は小林さんに『行くな』と言われたら迷うと思う。決まってないうちからこういうことをいうのは可笑しいけど迷う。


「いや。内々に美羽ちゃんに決まっていると思う。そうじゃないと高見主任や折戸さんまで来ない」


 そういわれると、自分のフランス交換留学が現実味を帯びてくる。実際に私が行かないとなると、誰が行くことになるだろう?静岡研究所としては聡明な中垣先輩が最有力なのは間違いない。静岡研究所で一番の実績を上げているし、今回の新商品の責任者も中垣先輩だった。


 でも、逆に静岡研究所としたらリーダー的存在の中垣先輩を手放すだろうか?そうなると、高見主任と折戸さんが言うように私が最有力になるだろう。そう思うと急に怖くなってきた。


「本当に迷います」

「それって、俺のこともその迷いに入っている?」

「え」



「少しは俺と一緒に日本に居たいと思ってくれている?」

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