あなたと恋の始め方①
 私が頷くと、小林さんはまたいつもの優しい表情を浮かべる。小さくフッと息を吐いたから、本気で私のことを心配してくれていたのだろう。こんなに心配させてしまうのなら、絶対に終電で帰ろうと思った。気持ちを落ち着けるためなのか小林さんの手に持っているジョッキには空になっていた。


「小林さん。もう一杯飲みます?」


「うん」


 今日はいつもよりもビールの量が多かった。


 小林さんが言うには折戸さんは日本に帰国する。でも、帰国するとはいえ、静岡まで来てくれるだろうか?フランスからの帰国となると、実家に帰ってみたり、本社に行ったりと忙しいのではないかと思う。静岡まで来てくれるとは思えない。それなら私が東京まで行くのもいいかもしれない。


「折戸さんに会いに東京まで行きますか?」


「いや、行かなくていいよ。折戸さんは静岡に来る。研究所を見に来るらしいよ」


 静岡支社ならともかく研究所に何の用事があるのだろう?確かに数年前に新築したばかりなので、施設は綺麗だし、設備も充実している。でも、フランス支社の折戸さんが研究所を訪問する理由が分からない。


「研究所ですか?特に来ても何もないと思いますが」


「新製品の開発についての説明を受けに来るらしい。でも、それは表向きの理由じゃないの?俺は美羽ちゃんに会いに来るのが目的じゃないかと思う。折戸さんのことは美羽ちゃんもよく知っているでしょ」


 
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