あなたと恋の始め方①
 キス???


 小林さんの少し色香を足したような囁くような声に、私の心臓はさっき少し落ち着いたのを忘れたかのように一気に振り切る。吃驚して見上げると、小林さんの視線は車窓の先の遠くの方を見ている。そんな小林さんの姿を見ながらズルいと思う。私だけこんなにもドキドキさせているのに、小林さんは平然の窓の外を見ているなんて…。


 本当にズルい。


「美羽ちゃんの降りる駅は次だよ」


 そんな平然とした声に車窓の向こうを見るといつも見慣れた最寄りの駅の近くの風景が目に映る。もう少しでこの幸せな時間も終わり。小林さんが勤めている静岡支社はまだ少しだけ先で、私の方が先に降りる。


 時間にして一緒にいたのは15分くらいで、もう少しで離れ離れになると思うと寂しいと思ってしまった。もっと一緒に居たいと思うけど、小林さんも仕事だし、私も研究所に行かないといけない。少しでもこの電車がゆっくりと動けばいいのに…。



 でも、そんな私の気持ちとは裏腹に電車は時間通りに私の降りる駅のホームに滑り込んだのだった。そして、無情にもドアが開き、乗降率の高い駅だから、たくさんの人が動きだし、私の身体もその人の流れに押されるように扉の方に流される。

 そして、ドアが開いた。見上げると小林さんが笑っていて寂しい気持ちで胸がいっぱいになる。


「では先に失礼します。小林さんも仕事頑張ってください」

 
 そういって、電車から降りようとすると小林さんはニッコリと笑っていて、この笑顔を糧に今日も頑張ろうと思った。

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