あなたと恋の始め方①
 私がベンチに座ると、その横に小林さんが座り、ミルクの入った微糖のコーヒーを手渡してくれる。そして、小林さんは自分の手にある缶のプルタブを開ける。


「ありがとうございます。いただきます」


「ん」


 朝の慌ただしい駅なのに、小林さんと私の周りだけ空気が切り取られたように感じるのは私だけだろうか?電車と電車の間だから、徐々に人が集まってくる。仕事に向かう緊張感溢れるホームのベンチで並んで座る私と小林さんは温かく優しさに満ちた雰囲気に包まれているような気がしていた。


 話すのも何を話したらいいか分からなくて、ただ、極々有り触れたことを話す。でも、そんな時間が楽しいと思うのはやっぱり好きな人の傍にいるからだと思う。

 
 少しでも長く一緒にいたい。
 このままずっと一緒に居たい。そんなことを思っていた。


 朝、小林さんの声を聞いて、会いたいと思い、そして、実際に会うことも出来た。そして、こんな風に駅のベンチで一緒に時間を過ごしている。それなのにもっとと思う私は欲張りになっていた。


「今日は仕事忙しい?」


「たぶん、忙しいです。高見主任が新しい研究の期限を春に決めたのでそれに向かってしばらくは残業です」


「そっか。美羽ちゃんも残業か?俺も今から忙しくなる。高見主任は静岡支社にも来たんだけど、思いっきり課長に発破を掛けていたから、俺も残業になる」


 高見主任の性格を考えると、研究所だけに期限を決めただけでなく、支社まで…というか小林さん個人にかもしれないけど、『目標』を背負わせたのは間違いない。

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