あなたと恋の始め方①
『待っているって?私をですか?』


 そんな私の言葉に電話口で小林さんが小さな溜め息を零した。私も普通ならこんなことは言わない。でも、こんな23時を過ぎたこの時間に待っていると言われて、自分の事とは思えなかった。


『美羽ちゃん以外誰を待つというの?仕事が少しだけ終わったから美羽ちゃんを迎えに来てる』


 会いたいのは私も一緒。でも、仕事が終わって疲れているのに私を研究所まで迎えに来るなんて申し訳なさすぎる。会いたいのと小林さんの身体のどちらを優先するかというと勿論小林さんの身体に決まっている。昨日も夜遅くに迎えに来て貰って、今日もとなると申し訳ないと思ってしまった。少しだけ早く終ったというなら、さっきまでは仕事をしていたなら小林さんも疲れているはず、それに今朝は私が起こすまで熟睡していた。


『小林さんは疲れてないんですか?残業ですよね。それに来てるって?』


『今、研究所の最寄りの駅に来てる。車をパーキングに止めて駅前で本屋でも行っているから、美羽ちゃんは最後まで仕事してきて』


 なんか申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど、こんな風に電話で話している時間は過ぎていく。それこそ小林さんの負担になると思った。私は少しでも早く小林さんの元に行かないと…。


『わかりました。仕事が終わり次第連絡します』


『待ってるよ』


『はい』


 
 私は電話を切って、すぐにパソコンの上に指を躍らせる。その様子を見て、中垣先輩が大きな溜め息を吐き、私の見る目が冷たく感じた。

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