あなたと恋の始め方①
「もう少しデータの整理をしたいのですが、ダメですか?」


 従わないといけないと思いつつももう少しで一区切り出来るのでと粘ると、中垣先輩はさっさと自分の着ている白衣を脱ぐとコキコキと首を動かしている。本気で帰る気だと思った。中垣先輩が先に帰ってもセキュリティのカードを貰えばこのまま続けることは出来る。


「俺は帰る。っていうか男待たせているのに余裕だな」


「小林さんは中途半端な仕事をするのを嫌いますから」



 小林さんは仕事に対してとっても真摯。そんな姿に私は好意を持っている。小林さんのことを考えると心が温かくなった。

「却下。今すぐ帰れ。」


 そういうと、中垣先輩は自分のパソコンの電源を落とし、飲み終わったコーヒーカップを持ち、立ち上がると私の傍に立った。そして、スッと手を伸ばしたかと思うと、サラッと私のパソコンのファイルを保存していき、電源まで落としてくれる。その手の動きに私は呆然としてしまった。


「中垣先輩。あの、まだ…」


 私が手を伸ばすと頭の上から声がする。静かな凛とした声が私の届く。有無を言わさないその動きに私は一瞬呆気に取られてしまった。こうなったらももう一度パソコンを立ち上げてというのは難しいくらい私にも分かる。


「また明日頑張ればいいだろ。早く帰るとメールしろ。っていうか、マジで世話が焼ける」


 見上げると中垣先輩はスッと視線を逸らした。いつもは研究の事しか興味がなくて、ほとんど人のプライベートのことに踏み込むことはない。なのに…。今日は譲らない。


「出るぞ。セキュリティを掛けるから早くしろ」
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