あなたと恋の始め方①
 どれだけ自分の頭からネジが飛んだのだろう?そう思うくらいに私の頭は小林さんで埋められる。優しい声も笑顔も私を魅了するだけでなく、私の思考を奪い去るくらいの威力を持っていた。今からの出会いまでをシミュレートしながら駅までの道を歩く私がいた。自分の思い描いたものにはならないかもしれないけど、シミュレートは大事だと思う。


 まず、カフェで深呼吸。コーヒーよりもオレンジジュースとかの方がいいかもしれない。そして、小林さんが来ると思われる時間を見計らって、カフェを出て改札口へ。電車から降りてきた小林さんに手を振ってみて…。小林さんが私に気付いてくれて、小林さんが私の前に来たら、ニコッと笑って「おはようございます。」と挨拶。


 この時に可愛く笑えればいいんだけど、と思い、自分の頬を摩る。顔筋が滑らかに動いてくれればいいのにと頬の筋肉をクルクルと回す。回したところでそんなに可愛く笑えるわけじゃないけど、少しでもと思うのが、女心なのかもしれない。やっぱり小林さんには可愛いと思われたい。


 グレーのワンピースは地味だけどいつもの私よりは少しだけ可愛いはず?靴も歩くからフラットの靴を履いているけど、それにも可愛いリボンは付いている。


 そんなことを考えながら歩いていると駅のロータリーが見え出した。駅に着くとホッとする。時間はまだ十分ある。お目当てのカフェに視線を移して、私はハッと息を飲んだ。コーヒーショップの横にある郵便ポストのところに小林さんが立っていた。

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