あなたと恋の始め方①
 そんな話をしながら電車に乗っていると私が降りる駅が近づいてくる。大きな身体の小林さんに守られていた時間も終わる。私はドキドキしながらの時間だったけど、少しだけ小林さんに近付けて嬉しかった。折戸さんの言うように『いきなり抱きついたり』は出来ないけど傍にいるだけで幸せだと感じる。


 小林さんの降りる駅は私の一つ先の駅。それなのに、小林さんは躊躇なく私が降りる駅で降りたのだった。最初は降車する人を避けるためだと思ったけど、そうじゃなくて、真っ直ぐ改札口の方に向かう。


「小林さん。この電車が最終ですよ」


「そんなの分かっているよ。美羽ちゃんを送りたい気分なんだ。送ってもいいでしょ?」


 そう言った瞬間。私たちが乗っていた終電はドアを閉めて動き出したのだった。もう、さすがに乗ることは出来ない。送りたい気分だったというけど、終電だし。小林さんも仕事で疲れているのにと思った。そんな私の心情を読んだのか、小林さんは私に向かって微笑んだ。


「大丈夫。美羽ちゃんを送ってからゆっくりと歩いて帰るよ。少し酔ったから覚ましながら歩いたらタクシーに乗るから大丈夫」


 
 駅から歩いて十分。私の住むマンションまでの距離が短くなったのだろうか。一人で歩くと遠く感じるのに今日は近すぎる。もっと一緒に居たいと思うのに、一歩毎に私が住むマンションが近づいてくる。マンションが目の前に見えだすと小さく溜め息が零れた。


 そして、マンションの前まで来てしまった。


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