あなたと恋の始め方①
 緊張のあまり何度も深呼吸を繰り返している私の目の前に小林さんが立っていて、私はそれに気づかなかった。小林さんはソファに座っている私の横に座るとゆっくりと顔を覗き込んでくる。


「美羽ちゃん?大丈夫?疲れた?それとも眠い?」


「大丈夫です。ちょっとぼーっとしていただけです」

 
 私は考えすぎていて小林さんが戻ってきているのに気付かなかった。確かに運動は殆どしない私が遊園地を一日掛けて歩いたのだから足も痛いし、疲れもしている。でも、小林さんと一緒に居れるということだけで幸せでドキドキする。小林さんはニッコリと笑うと私の方に一枚のカードキーを手渡したのだった。


「美羽ちゃんの部屋のカードキーだよ。俺の部屋は隣」


 小林さんは私の目の前に自分の部屋のカードキーを出したのだった。そこには私に渡したものと同じカードキーがあって、部屋を二部屋取ったというのが分かった。小林さんは最初から私とは別の部屋を取るつもりだったのだと思うと身体から力が抜けていく。


 ホテルのロビーには煌めく照明。ざわめくその場所には幸せの笑顔が溢れていて、幸せそうな笑い声が妙に耳につく。さっきまで緊張しすぎていて、殆ど気にならなかったのに今になって笑い声が気になるとは思わなかった。煌めく照明の下の小林さんは綺麗な微笑みを浮かべていた。少し逆光になっているけど、私に微笑みかけてくれているのは分かる。大好きすぎる笑顔なのにその笑顔を見ると今は苦しい。
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