あなたと恋の始め方①
 その後も小林さんは全く変わらない様子で私に話し掛けてくる。そして、私の手を取ると、また自分の腕に絡めさせた。身体を寄せて歩きながら小林さんの声が身体を通して響いてくる。ロビーを抜けエレベーターホールに向かって歩く。豪華な絨毯に少し靴を沈ませながら歩いてると、急に上から声が響いてきた。


「キツイの?」


 そう聞かれたのはエレベーターの中だった。小林さんは心配そうに私の顔を覗きこんでくる。急に目の前に現れた小林さんの顔にドキッとしてしまい、たまたまエレベーターの中に誰も居なかったのが良かったと思う。


「大丈夫です」


「泊まるの嫌だった?今からでも帰ろうか?まだ遅くはなるけど大丈夫だよ。美羽ちゃん。無理をしないでいいから」


 小林さんは私が元気がないのはホテルに来たくなかったからだと思ったみたい。見上げると心配そうに私を見る小林さんの顔があって泣きたくなった。ここまで来て小林さんの正反対の勘違いに泣きそうになる。でも、私が浮かない顔をしてるから小林さんはそう思うのであって…小林さんが悪いわけではない。


 優しい瞳を見ていると言いたくなる。『朝まで一緒に居たい』って。『ずっと傍に居たい』って


 でも、そんな私の気持ちは言葉にしないと伝わらない。心の中を推量することは出来ても、完璧にその気持ちを理解することは出来ない。



「無理しないでいいんだよ。美羽ちゃんが嫌なことは絶対にしたくないんだ。今から帰ろう」

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