あなたと恋の始め方①
 エレベーターはそのままロビーのある階に着き、小林さんに連れられてさっきのソファの所に連れて行かれる。私は時間を巻き戻したようにさっきのロビーでソファの同じ場所に座り、その横には小林さんが座っていた。私の手は小林さんの手に握られていて、もう片方の手には二枚のカードキーがある。

 少しの間を置いて、小林さんは口を開く。静かに心に響くような優しい声なのに、優しいだけではない強さも秘めた声だった。重なる手の温もりを感じるとゆっくりと自分の身体の強張り溶けていくように感じた。


 何を言うべきか、言葉を選ぼうと思うのに、私の頭の中にあるのは小林さんを求める言葉だけでもっと近づきたいと思うだけだった。


 小林さんは少し息を吐いて深呼吸してからゆっくりと言葉を零す。その声は真剣で、少しの緊張を孕んでいる。少し低めの声が小林さんの心を反映しているように見えた。


「美羽ちゃん。あのさ、俺も男で、好きな女の子が一緒に居ると触れたくなる。正直、自分を抑えられる自信はない。だから、今日は二つの部屋を取ったんだよ。分かるよね。俺は美羽ちゃんがとっても大事なんだ。傷つけたくない。俺も男だから優しいだけでは居られないと思う」


 小林さんは優しい声でまるで子どもを諭すようだった。私にも小林さんの言っている言葉の意味は理解出来ている。理解出来過ぎている。それなのに私の心は我が儘を言う。私は小林さんに恋をしてしまっていて、楽しかった一日を終わらせたくないと思っている。その先に抱かれるという行為があるのは自然なことだと思っていた。
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