あなたと恋の始め方①
 人生というのは甘くなく。いくら神頼みしても結局は自分の力で努力しないと成し遂げられないというのを私は知る。次の日から始まった研究の山場は私が思ったよりも厳しいものだった。


 朝、研究室に入ると、すでに中垣先輩は臨戦態勢。パソコンのデータを引き出して、紙に束を片手に持ち、研究のデータと付き合わせているようだった。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 とりあえず挨拶はしてくれるから、まだ、序盤なのだと分かる。切羽詰ってくると、中垣先輩は殆ど何も話さなくなる。そんな中垣先輩にも慣れたもので、私も徐々に言葉数が減っていく。気付いたら既に外は真っ暗だし、時計を見るとかなり夜も更けている。


 いつもなら泊まってでもするところを、小林さんの言葉が頭から離れなくて終電で帰ることにした。


「お先に失礼します」


「ああ」


 そんな連絡のような挨拶をすると私は研究室を出る。時間を見ると少し早足で歩くと終電に間に合う。今まで終電とか乗るなら、泊まっていたけど、小林さんと約束したからそれだけは守りたい。だからと言って仕事で疲れているのに、態々、小林さんに私を迎えに来させるわけにはいかない。


 そのくらいなら毎日終電で帰るほうがいい。


 小林さんと食事に行ったのは月曜日。
 

 火曜日…終電。
 水曜日…終電。
 木曜日…終電。


 研究の山場を越え、ホッと息を吐いたのは金曜日だった。終わったのは夕方の五時。珍しく定時に終わることが出来た。無口で頑張っていた中垣先輩とまともな言葉を交わしたような気がする。


「大変だったけどお疲れ。これで、完全ではないとはいえ、成果を報告出来る」
 

< 31 / 403 >

この作品をシェア

pagetop