あなたと恋の始め方①
「私も楽しいです。ここに居たいけど…」


「そうだね。俺もそれは分かってる。そろそろチェックアウトしないと折戸さんの乗る飛行機に間に合わなくなる。あんまりゆっくりすると、昨日、美羽ちゃんが言ったように飛行機の期待だけを見送ることになってしまう」


 小林さんの言うとおり、折戸さんの乗る飛行機を見送るには成田空港に行かないといけない。それに、私はどうしてももう一度折戸さんに会いたかった。たくさんの優しさにありがとうと言いたかった。私が小林さんの手を取っても変わらず優しくしてくれたことも私の幸せを一番に考えてくれたことも私は忘れない。


 ゆっくりと小林さんの背中に回した手を緩めようとすると、さっき以上に小林さんはギュッと私を抱きしめてくれた。


「あと、もう少し」


 そんな甘えたような言葉に私が抗う理由がない。私も小林さんの背中にもう一度手を回して…頬を逞しい胸に寄せる。シャツの布越しに聞こえる心音は少し早目で、それでも規則的に聞こえる。私と小林さんはギリギリの時間まで…お互いの温もりを分け合いながら時間を過ごす。そして、さすがにもう間に合わなくなるという時に、小林さんはフッとまた息を吐いた。


 もう時間だった。


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