あなたと恋の始め方①
 そんな私の言葉にも全く表情を変えずに折戸さんはいつものように穏やかで優しげな微笑みを浮かべて私を見つめている。東京で戸惑わなかったのはこの微笑みのお陰だと私は知っている。この優しさがなかったら、研究所から出たばかりの私は戸惑いを通り越して、仕事さえ辞めていたかもしれない。

 
 でも、私が恋をしたのは小林さんだ。理由はないけど、一緒に居たいと思うのも小林さんだけ…。



「ああ。結婚だよ。お見合いで結婚する人もいるんだから、結婚を前提にお付き合いというのも可笑しくないだろ。それに、俺と美羽ちゃんは一緒に働いたこともあるし、たくさんデートもしただろ。一緒に過ごした時間は楽しかった」


 頭の中の混乱が激しくなる。


 結婚を前提。デート??
 一緒に働いていたけど、デート??


 確かに一緒に色々なところに食事に行ったけど、あれってデートだとは思ってなかった。最後の時はデートだとしても、他のには疑問符が浮かぶ。でも、冷静に考えるとあのたくさんの食事とデートの違いなんか殆どなくて…私は黙るしかなかった。


「俺も美羽ちゃんとは食事に行ってますよ。お互いの時間がある時はいつも」


 小林さんがそういうと、折戸さんは零れんばかりの微笑みを向ける。だけど、口から零れる言葉は優しくなかった。


「それって、ただの食事だろ。」

「…。」


 小林さんが一瞬息を飲む。そんな横顔を見ながら…。胸がきゅんとなる。


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