あなたと恋の始め方①
 小春日の中、私は研究所を出ると前を歩く二人の後ろを歩く足の長さの違いがあるのに、必死についていかないでいいのは二人が私の歩くスピードの合わせているからに他ならない。でも、迷わずにまっすぐ歩いて行く高見主任と折戸さんはどこに行くのだろう。


 二人について行けば間違いはないだろうけど、それにしても二人は全く迷わずに歩いていく。


「ここにしよう」 


 しばらく歩いて連れて行かれたのは私も知らない場所だった。静岡に来て何度も外で食事をしているのに、ここまで来ても高見主任には驚かされる。どこでこんな店を見つけてくるのだろう。研究所から少し歩いたところにあるその店は見るからに高級そうで、でも、どことなく親しみのあるような趣の店だった。


 高見主任好みの和食懐石の店で料理も期待出来そうだけど、それ以上にゆったりとした趣のある店内は時間を喧騒を忘れさせ、店を訪れた人を優しく包む。そんな気がした。


 中に入ると案内されたのは仕切られた座敷で、私は当たり前のように高見主任と折戸さんの前に座らせられていた。白衣は置いてきて良かったと心から思う。会社を抜け出してというには勿体ないくらいの場所で、手には財布とハンカチと携帯の入った小さなバッグが一つあるだけで心もとない気もする。


「久しぶりだね。元気そうで何よりだ。静岡研究所で頑張っていると聞いてはいたけど、どうなのか自分の目で確かめないといけない性質だからね」
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