溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
その見つめ合った一瞬が、一時間にも一晩にも感じたのは、その一瞬で二人の心に変化があって、心が通じ合ったからかもしれない。
その一瞬が大事で、意味のある時間だったから。
でもその時間は、意図も簡単に崩れ去った。
インストラクターさんが開けたドアから聞こえてくるのは、ヘリの音。
寄り添ったまま、空を見上げると真っ青な空に、不快な音を撒き散らしながらヘリコプターが浮かんでいる。
豪華客船に不釣り合いなそのヘリには、私が働いている旅行会社のマークが入っている。
ってことは。
「失礼」
夢から覚めたかのように、ジェイドさんの腕から降ろされる。
彼は、酷く沈んだ寂しげな表情で私を見て、笑った。
「俺と話がしたいなら、そちらから出向くのが礼儀ではないかな。俺がそう言って、相手を確かめたんだ」
「え」
「やっと、日本の領海に入ったからね。乗りこんできたみたいだよ。彼」
彼が、誰なのか私は想像したくもなかった。
今は、今はまだ夢の中に居たかったのに。