溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「七帆!」
グーで殴ってやろうかと悩んでいた右手が、自然と口元を覆ってしまっていた。
むせかえるような似合わない香水は、いつものブルガリプールオムの爽やかな香りではなかった。それですら、こんなに強烈にしないのに。
いつものスーツではなく、糊が効いた下ろしたてだと分かる紺色のストライプのスーツに、ワックスでがちがちに固めてある前髪。革靴は鏡の様によく磨かれている。
全てが、新卒の社員が背伸びをしたような無理した感が拭えなくて。
面白くて笑いをこらえるのに口を覆ってしまったんだ。
「心配したのに、相変わらずそうで良かった」
「……心配したとかズルイこと言わないでいいから」
彼女がいるのに他の女にも優しいなんて。
恋人はいないけど全ての女性を平等に優しくしてくれるジェイドさんの方がまだ素敵だ。
「日本に帰って、まだ七帆が帰ってないって聞いて真っ青になったんだ。一言
でも声が聞きたくて何度か電話したのに」
――此処に?