溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~
「七帆は騙されてるんだ。落ちついて聞いてくれ」
「や。甲斐がまず落ちついてよ!」
せっかく綺麗に磨かれている革靴を踏んでみたけれど全く効果がない。
甲斐が怖かった。
いつもの甲斐じゃない。
爽やかに笑う、人懐っこい表情がコロコロ変わる甲斐ではない。
怖い。
「ナホ!」
部屋の中から、私を呼ぶ声がした。
振りほどきながら、中を見ると部屋へ入って来るジェイドさんが見えた。
「ジェイドさん!」
私がそう叫ぶと、甲斐が荒々しく舌打ちをして、バルコニーへ入るガラス戸を開けないように貼りついた。
そして、後ろ手で押さえながら私を見る。
「開けろ! 今すぐここを開けろ!」
時折英語になりながら叫ぶジェイドさんに視線を送ると甲斐が言う。
「日本に、恋人がいるんだろ? こんな風に七帆を囲う奴なんて俺だって信用できない!」
「知ってたの?」
私たちの言葉なんて聞こえないほど、ジェイドさんは部屋の外から窓を叩いている。