純情喫茶―恋する喫茶店―
谷木と結婚して1ヶ月が経ったのだが、結婚前と変わらずに玲奈は彼に振り回されていた。

(何であんなヤツが私の旦那なのよ!)

今朝のことを思うと、コーヒーを淹れている手が震えた。

「姉さん、あふれてる」

横から笙が言った。

「あっ…!」

彼の言う通り、カップからコーヒーがあふれてこぼれ落ちていた。

「大丈夫?」

眼鏡越しから笙がいろいろな意味を込めたような瞳で、玲奈を見ていた。

「――大丈夫です!」

全部谷木のせいである。

コーヒー1杯だけでも時間がかかっているうえに、笙には憐れみとからかいの意味で見つめられている。

毎日のようにキスをされて耳元でささやかれたら、玲奈の躰はもたないだろう。

「いいね、結婚している人は」

からかっているのか、笙が言った。

そう言う彼は、明菜と言う大学生の女の子とつきあっている。

こちらも、もう1年が経ったことだろう。
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