俺様御曹司の悩殺プロポーズ
「私がこぼしたんじゃない」と言いたい気持ちを、口に出せなかった。
言ってはいけない気がしたから。
私がやったことじゃなければ、他の誰かがやったことになる。
それが、故意だとしたら……。
そう考えてしまい、真夏なのに鳥肌が立った。
「すみませんでした。
すぐに片付けて、部長のところに謝罪に行きます……」
私がそう言って頭を下げると、佐川亜梨沙は侮蔑の視線を流してから、歩き出した。
私はバッグからお気に入りのフェイスタオルを出して、机を拭く。
遠ざかる、佐川亜梨沙のハイヒールの音。
それと一緒に、クスクスと笑う声が、どこかから聞こえた。
手を止めて辺りを見回すが、私を見て笑っている人は見つからない。
近くには数人いるけれど、皆、自分の仕事に集中している。
珈琲が滴るタオルを持ったまま、佐川亜梨沙の後ろ姿を見つめてしまった。
今笑ったのは、佐川さん……?
もしかして、彼女がこれを……。
いや、違うよ、違う。
嫌われているからといって、変な被害妄想を持ってはいけない。
何の証拠もないのに……。