俺様御曹司の悩殺プロポーズ
さっきの大きな玄関とは違い、こじんまりとした玄関で、扉の上には“椿の間”と札が掛けられている。
この宿の仕組みがよくわからなくて首を傾げている私に、風原さんが外用スリッパに履き替えながら説明してくれた。
「今いる場所は母屋で、この玄関扉を開けて小道を進むと、椿の間ーー俺たちが今晩泊まる部屋にたどり着く。
この宿は、客室の全てが離れになっているんだ」
全客室が離れとは、なんて贅沢なお宿だろう……。
もっと詳しく説明してもらうと、離れの数はたったの6棟で、予約は基本1日5件までと決めているそうだ。
なぜ6件じゃないのかというと、この宿にとって繋がりの深い上客が急に泊りたいと言ってきた時に対応できるようにするためで、
風原さんはまさにその上客に当たるということだった。
「風原さん、すごい!」
そう単純に褒めた私に、彼は苦笑いをする。
そして少し言いにくそうに、こんな話をしてくれた。
「俺が上客なんじゃなく、俺の父親がこの宿の得意客なんだ。
本来は父親に縁のある宿は利用したくないのだが……、今回は致し方なかった。
ここは他の客との接触がない。チェックINOUTの時間も調整して、被らないようにしてくれる。
密談密会が必要な権利者達がこの宿の上客で、ここの経営を支えてもいる。
俺は権力者でもないし、風原家の常宿を使いたくもなかったが……お前と今泊まれる宿はここ以外になかった」