俺様御曹司の悩殺プロポーズ
子供の頃に風原さんは、父親に連れられてこの旅館に何度も泊まったことがあるそうだ。
それは、ただの家族旅行ではない。
5つ年上の兄と一緒に、権力者の宴に同席させられたのだ。
いずれお前達もこの道に入るのだから、今から処世術を覚えろと父親に言われて……。
父親にゴマをするのは白髪の老人で、
逆に普段は厳格な父親がへつらう相手は、父より若い男性だったりした。
風原さんは幼い頃からそんな大人達の世界を見てきた。
その宴には男達だけではなく、胸がはだけそうな服装の若い女性達もいて、
酒が深くなり空気が淀んでくると、風原さんと兄だけ風呂に入ってこいと命令されて、部屋から追い出されたそうだ。
大人達の醜い饗宴の音を耳にしながら、兄と二人で入った露天風呂。
その時の兄にはこう言われたそうだ。
『俺たちは、あんな大人にならないようにしような』と。
その兄も、今では父親と同じことをしているらしいけど……。
風原さんの想い出話はもう一つ。
母親とは一度だけ、ここに泊まりにきたことがあるそうだ。
それは、小学校に上がる前の幼い頃。
彼の母親は厳しくて、甘えることを一切許してくれない人だった。
そんな母親が自分と一泊旅行に出かけると言い出したので、幼い彼は喜んだ。
でも……なぜか見知らぬ男性が一緒だった。
母親よりも十も若そうな、見目良い男性。
親しげに寄り添う母の姿に幼い彼は戸惑った。
その旅行で風原さんは母親に構われることはなく、ただ寂しい記憶が残っただけ。
後に成長した彼は、あれは母親の不倫だったのだと気付いた。
それと同時に、自分は不倫旅行のカモフラージュの道具として連れて行かれただけなのだと……それにも気付いた。