俺様御曹司の悩殺プロポーズ



風原さんはきっとまだ椿の花を眺めている。

声の聞こえ方からそう思った。

私は風原さんの顔を見ていられなくて、温泉のお湯が注ぎ込まれる様をじっと見つめて聞いていた。



「こうして椿の花を見ていると、あの時を思い出す。

兄と二人で露天風呂に入った時も、庭に椿が咲いていた。

母親に構われずに一人でこの風呂に入った時も、椿が真っ赤に花を咲かせて、雪がチラチラ降っていた……」



私の胸は切なくて、幼い頃の彼を哀れに思っていたけれど、

風原さんの声には、“辛い”という感情はこもっていなかった。

ただ淡々と、想い出を語っているだけ。


家族に対する辛いという想いは、とっくに克服しているとばかりに……。



彼の右手がお湯をすくい、外気に晒されている私の肩に何度もかけてくれた。


申し訳ない気持ちになっているのは、お湯をかけてもらうことに対してではなく、ここにいることに対して。



「この旅館には、いい想い出がないのですね……。

私が淋しがったばかりに、無理してここに来ることになってしまい、すみませんでした……」



お湯に向けて小さな声で謝ると、風原さんは私の体を強く抱きしめた。



「そんなことはない。いい想い出が現在進行形で作られているだろう?

お前と一緒に来たお陰で、この宿にいいイメージが持てそうだ。

きっと一生記憶に残る、温かくて幸せな想い出に」


「風原さん……」



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